作者は,全て豊田市在住の安藤豐邨先生です。刻字という書道の一分野における日本の第一人者の方です。主な作品をご紹介します。

◎玄関の額 「和気動」2009年☟

桂の木に緑青の色で字が刻まれています。字体は金文文字(中国・周時代 紀元前1000年頃)を再現した字体です。字の意味は「この玄関を入った瞬間から和やか気分になる」という意味です。

 

「和」は右上の大きな字です。穀物の豊かな実りを現すの「のぎへん」は気を現します。其の左には、村の柵の辺りで和気あいあいと楽しく話す二人の人がいますね。和の右下には「気」は今と違って昔の字には上の部分しかありませんでした。風にたなびく三本の髪の毛を現しています。額の左側にある字は「動」です。昔は、今ほど字の数が多くなかったので「動く」は「童」と同じ字が充てられていました。子供は大人よりもよく動きますよね。字の真ん中の目玉が印象的ですね。

 

 

 

◎待合ホール西側の額 「散鬱陶(さんうつとう)」 2011年☟

額の材質は1メートル四方の桂の木です。右側の字が「解」です。よく見ると上の方に「刀」その下に「角」。その下に「牛」がいますね。左上の字が「鬱」です。鬱の別の意味に「草木の茂る様」がありますが、水辺に木が3本茂っている様ですね。水の滞る場所でもありますが、一時的にエネルギーを溜め、次のエネルギーを発動する場所というプラスの意味もあります。「鬱陶」という熟語は「心がふさいで晴れやかでない」という意味であり、この3語の意味は「鬱陶しい気持ちを解く」という意味です。快適な待合室でお待ち頂くことで、少しでもリラックスして頂ければと思います。

 

 

◎待合ホール東側の額 「百里和平東海天」 2010年☟

額の材質は桂の木で、字体は金文文字の再現です。字は右から順番です。右から3番目の「和」という文字は、玄関の額にも出てきましたね。右から5番目の「東」は籠の上下を紐で結んだ形から来ている様です。右から6番目の「海」の偏は「水」を現し、旁は「簪(かんざし)」を挿した女性です。母なる海ですね。

この額の意味は「見渡す限り百里も和やかに晴れ渡った東海(日本)の天(空)」です。

 この作品は、2010年の毎日書道展に出品され、東北地方を含めた全国数か所を巡回した大作です。日本の永遠に続く平和を願う意味も込められていますが、翌年に、日本の空と海を汚染する東日本大震災が起きてしまいましたので、後付けですがある意味で予言の書であると思いました。

 

 

 

◎小待合の額 「大夢(たいむ)」2009年☟

桂の木に甲骨文字(中国・殷時代 紀元前1500年頃)を再現しています。右側の字が「大」です。人が手と足を広げて構えたような形ですね。左側の「夢」は首を時計回りに90度傾けて見ていただくと、草冠の現すベッドに横たわる睫毛の長い目の「もののけ」が居ます。昔から夢は何で見るのか分からないという意味で、少し恐い「もののけ体験」と考えられていたようです。もののけの足は短く、上に伸びているのがもののけの長い手です。

夢は自ら掴むものです。皆さんには診察を待っているほんの短い時間(タイム time)でも、一瞬の夢を見ていただきたいです。特に若い方には、大きな夢を見て頂き、行動の移して欲しいと願っています。

 

 

 

 

 

◎診察室の額「憂解」☟

額は桂の木です。右下の先生が読まれた詩から二文字が取られて刻字されています。右側は「牛」と「角」と「刀」の合わさった「解」。左側は「憂」です。人が顔に手を当てて悲しむ様が現わされています。きっと涙を流して悲しんでいます。額の意味は「憂鬱な気持ちを解く」です。診察室に置くのにはピッタリと思って、旧クリニックの時代から診察室の壁に掛けてあります。アート作品の放つ力が皆さんの憂鬱な気持ちを解いてくれると思います。