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精神科における暗黙知医療

 先日、日経新聞の黛まどかさんのコラム「半歩遅れの読書術」を読み、「形式知」と「暗黙知」の違いについて知りました。「形式知」がデーターや数値、言葉など客観的に表示されるものであるのに対し、「暗黙知」は経験の中で獲得する個人に根ざした技能や知識であるとのこと。この対比は、検査データを重視する「一般科(身体科)」と殆どデータなど無しに診察する「精神科」の対比によく似ていると思いました。一般科の先生からしたら「何で精神科は検査もせずに診断できるのか?」と思っておられるかと思います。精神科にも一応のマニュアル的な診断基準はあるにはありますが、実際の臨床では各人の経験に基づいた独自の診断基準や精神療法、処方でやっているのが実情であると思います。

 現代はデータや生産性、AIなどの「形式知」が優位な社会でもあり、医療の分野でも同様です。それは総合病院で形式知に反する医療である精神科外来がどんどん閉じられて減っている現状にも関係があると思います。一般科では症状があってもデータで異常が無ければ、不定愁訴と片づけられて「様子を見ましょう」と切られてしまいがちです。それに物足らない患者さんがどんどんメンタルクリニックに来られるのは検査至上主義の現代医療への皮肉であると思います。

 医療機器は日々進歩しており、医療へのAI利用も進んで行くかと思いますが、当院では「患者と医者が至近距離で話すことでしか生じないスパークを重視した医療」、「身体で憶えていて他者に伝達することが難しい様な独自の医術を生かした医療」を愚直に目指し行きたいと思います。