精神科で一番のキーワードとなる文字「鬱」は元々「酒」に関係した文字です。まず「鬱」の左下にある「鬯(ちょう)」という字形は「鬯」は香草(こうそう)を酒壺(さけつぼ)に浸(ひた)している形です。「凵(かん)」の部分が容器で、下の「ヒ」がその脚部です。「凵」の中の「米」のような形が香草です。 その香草で、香(かお)りがついた酒を「鬱鬯(うっちょう)」と言います。古代のお祭りにはその「鬱鬯」の酒を使いました。 つまり「鬱」は甕の酒に香草を加えた鬯をふたして覆(おお)っておくと、時を経(へ)て強い香りがする酒である「鬱鬯」ができることを表した文字です。
「鬱」は「林」「缶(かん)」「冖(わかんむり)」「鬯」「彡(さん)」で出来ています。「冖」は容器(ようき)のふた。「彡」は色や香りが盛(さか)んな様子を表す記号です。「缶」は今はカンのことですが、古代では「甕(かめ)」です。木がこんもり茂(しげ)る「林」の中にある「甕」の中に醸(かも)された酒がある場面が思い浮かびます。
なぜ、この字が抑うつを意味する言葉に変わったのでしょうか?私の想像では、気「彡」が何らかの蓋で塞がれた状況を現すことが、気が塞がれる「うつ状態」という意味に転じたのだと思います。蓋は、現在で言えばプレッシャーやストレスを現すと思います。
鬱の字は書き方を憶えるのも大変難しい文字です。「リン」(林)「カーン」(缶)大統領「は」(冖)アメリカン(米)コ(凵)ーヒ(ヒ)ーを3(彡)杯飲むが、この複雑な字を書く憶え方だそうですが、私も診療の前や昼休み、診察後にコーヒーを1日3杯は飲みます。時々お酒も飲みます。帰宅後に缶ビールの蓋を開ける時は1日の疲れが抜けホッとしますね。(笑)。
臨床場面でこの字を書くのは紙カルテ時代の手書きだと大変ですが、最近では電子カルテの変換で割と第一選択で出て来る様になりましたので、やむにやまれぬ思いで当院へ来られた患者さんの切なる思いを表現すべくカルテには「うつ」ではなく、なるべく「鬱」の字で記載する様にしています。患者さんそれぞれの「鬱の蓋」を取り除くヒントを見つけるべく患者さんと共に努力したいと思っています。
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