初心忘るべからず

 世阿弥の『花鏡』の中に書かれているこの言葉は、一般的には「物事を始めた頃の志を忘れずにひたむきに取り組め」という風に理解されているが、それは誤解であるとのことです。『花鏡』には3つの初心が書かれている。駆け出しの頃の初心(是非の初心)、円熟期の頃の初心(時々の初心)、老年期の初心(老後の初心)である。能では上達や年齢に応じてその都度「壁」が来るので、それを乗り越えるための心構えが書かれています。

 結局のところ、世阿弥が言う「初心」とは今までに体験したことのない新しい事態に対する方法、あるいは試練をに乗り越えて行く時の戦略や心構えのことであり「初心忘るべからず」とは、「試練の時に自分で工夫して乗り越えよう。あるいはその時の戦略を忘れずにいよう」ということなのだそうです。

  振り返って精神科の診察の中で思うことは、若い人、中高年の人、老年期の人とそれぞれがそれぞれの人生の中で試練にぶつかり来院されるが、治ると言うことは結局は自身の抱えている試練や課題を自ら乗り越えて行くことなので、治療者はそのお手伝いをすることくらいしか出来ない。患者さんには、世阿弥の言う「初心」を少しでも身に付けてストレス耐性を増し無事乗り越えて行って欲しいと願っています。

 私自身はいつまで経っても未熟であり、いつも初心者の気持ちで患者さんから日々学び「今日は昨日の自分を超える」べく毎日頑張りたいと思います。