· 

診断的治療

 昔から病前性格と診断の関連が言われていてなるほど当てはまると思うことも多く、長年精神科医をやっていると頭にしみ込んでいる面がある。

 病前性格が真面目な執着性格やメランコリー親和型性格の人は単極型うつ病、病前性格が社交的で明るい性格の人、いわゆる循環性格の人は双極性障害(躁うつ病)とつい考えがちである。しかし、下図に示す様に双極性障害Ⅱ型(うつ状態)の人も殆どの病期はうつ期で躁や軽躁期はほんの僅かの時期だけであり、単極型うつ病との鑑別は専門医でも難しいと言われています。

 診断が違うと投与する薬が違って来る。この人は病前性格から単極型うつ病に違いないと思って抗うつ剤投与を続けても一向に反応が無いので、まさか?と思って双極性障害に使う薬である炭酸リチウムを少しだけ投与すると劇的に良くなる人もいる。逆に、この人は双極性障害Ⅱ型(うつ状態)に間違いないと思って炭酸リチウムなどの気分安定薬を投与しても一向に治療反応が無いので、思い切って抗うつ剤を試してみると劇的に症状改善がみられることもある。結果的に、薬の効き方で診断が明らかになることも臨床現場ではあります。いわゆる「診断的治療」である。

 簡単なチエック式の問診票で〇がいくつ当てはまればこれという様に診断がついてしまう程、診断・治療は簡単ではなく日々試行錯誤の連続です。